GIMブログ(あくえりの暢気にジェネラル)

JCHO東京城東病院総合診療科の森川暢によるブログです。総合内科と家庭医療が融合した、病院総合医の理想像を追い求めています。夢は、理想的な病院総合医のシステムの確立と普及です!今日の時代におけるGIMは、診断学や内科マネージメントに加えて、家庭医療学を専門にする必要があると考えています。このブログでは徒然なるままに思うところを書いていきます。

Histology Rings True

○プレゼン
エタネルセプトとメトトレキサートで治療されている58歳の非びらん性関節リウマチの患者が、2週間の経過の39℃の発熱と著名な寝汗で救急外来を受診した。

先週から目が黄色くなり、黒っぽい尿を認めた。

呼吸困難、腹痛や膨満、吐き気、嘔吐、排尿障害、易出血性、頭痛、または筋肉痛は認めなかった

○コメント

発熱の原因としては通常、感染、悪性疾患、自己免疫が考えられる。一般的ではないが、薬に対する副作用として熱を認める(訳者コメント 薬剤熱は多いけどなー)。免疫不全の患者における発熱は通常、感染であることが多い。抗TNRα製剤は、マイコバクテリアおよび真菌感染やリンパ腫のリスク増加と関連している。関節リウマチ自体が、リンパ腫のリスク増加と関連している。
目の黄染と黒っぽい尿は胆汁うっ滞を示唆されるが、肝内病変 (感染症やリンパ腫)or 肝外病変(胆石など)が考えられる。 

患者の発熱を考えると、最初の優先順位は胆道系の閉塞と胆管炎を排除することである。

黄疸、黒っぽい尿(ヘモグロビン尿)は自己免疫性溶血性貧血、マラリア、clostridium perfingensの菌血症などの溶血性貧血で起こりうる。

関節リウマチの診断は再考する必要がある。分類不能の関節痛が誤って関節リウマチと診断されていることがあるからである。免疫抑制は、時折 whipple病のような関節炎を起こす感染症をマスクすることもある。

 

 

○プレゼン

 十年前に手首と手の多発関節炎を認めリウマチ因子陽性であったため関節リウマチと診断した。患者の症状は、メトトレキサートとエタネルセプトで十分にコントロールされていた。他に高血圧や高脂血症の既往歴が有り、アムロジピンおよびシンバスタチンを内服していた。新規に始めた内服薬はなく、ハーブサプリメントを摂取することもなかった。適度にアルコールを飲み、タバコや違法薬物を使用していなかった。テキサス州で生まれ、カリフォルニア州のセントラルバレーに住んでいた。症状発症の1週間前に、彼はユタ州の国立公園での一週間の旅行から戻っていた。彼はホテルに滞在し、蚊、ダニ、または動物への曝露はなかった。彼は学校の先生として働いていて、30年間一人の妻と過ごしていた。

○コメント

曝露歴からブラストミセスおよびヒストプラスマの再活性化やコクシジオイデス症のリスクがありそれらは全て胆汁うっ滞性を引き起こす可能性がある。

彼が教えて子供の年齢によってはEBウイルスサイトメガロウイルスリスクが高いかもしれない。急性A型肝炎は、発熱、黄疸をきたすが、長期間発熱が継続する点が合わない。ユタ州への彼の旅行で彼の野外活動は、動物または環境暴露を介した感染症の可能性を想起する。げっ歯類の尿が混ざった淡水への暴露がリスクであるレプトスピラ症は、発熱と黄疸を説明することが出来る。野兎病は、野兎病菌ウサギやげっ歯類への暴露によるFrancisella tularensisの感染で、発熱、肝炎を引き起こす可能性がある。

 

 

○プレゼン

体温37.3℃、PR82/分、呼吸数12回/分BP134/65mmHg,酸素飽和度98%RA。

generalは良さそうに見える。強膜および舌下に黄疸が存在し。頸静脈怒張なし。心肺音は正常。腹部検査では肝脾腫なし。右上腹部に触診で軽度の圧痛あり。浮腫、クモ状血管腫、手掌紅斑、またはリンパ節腫脹なし。関節には腫れや変形なし。

WBC6000 Hb 10.9 PLT28万 MCV85 AST179 ALT127 ALP351 T-bil:23.8 直接ビリルビン17.8 INR2.5
尿検査には蛋白尿、血尿、または膿尿なし。胸部X線検査は正常。

○コメント
患者のバイタルサインは正常範囲だが、発熱、右上腹部痛、胆汁鬱滞、黄疸、免疫不全があるので胆管炎を考えざるおえない。

WBC増加は認めないが、免疫不全ではありえる所見。さらにメトトレキセートはWBC低下・骨髄抑制を引き起こす可能性がある。L/Dは肝細胞障害と胆汁うっ滞の混合パターンを示しているが、後者がより顕著。直接ビリルビン高値の鑑別診断は肝外胆管閉塞(総胆管結石症、腫瘍、狭窄)と肝内胆汁うっ滞(ウイルス、マイコバクテリア、真菌感染症、肝膿瘍、浸潤性リンパ腫、癌、薬剤)。

INR上昇はビタミンK存在を反映しているだろうが、これは黄疸もしくは肝機能障害によるものだろう。

ビリルビン血症と凝固障害は、どんな原因の急性肝炎後に見ることができる。この患者の貧血は鉄欠乏と炎症の貧血の組み合わせを反映している可能性がある。溶血は、直接高ビリルビン血症を引き起こすことはなく、出血の証拠はない。

 

○プレゼン

腹部超音波検査では胆嚢周囲の液体貯留と胆石症を認めた。胆管拡張や腹水はなかった。MRCPでは胆嚢壁肥厚と胆石を認めた。胆管拡張、総胆管結石症、fat stranding、肝実質の異常はなかった。PTGBDを行い、ピペラシリン - タゾバクタムを胆管炎として投与した。メトトレキサートとエタネルセプトを中止した。

ウイルス性肝炎の検査は陰性、ANAを提出。血清鉄は17μg トランスフェリチン119mg/dl、フェリチン423μg/l 血液および尿培養は、陰性。

○コメント

胆管結石が胆管炎の最も一般的な原因だが、画像所見ははっきりしない。ただ、胆管炎と頻度と死亡率を考えれば抗生剤を使うのはリーズナブル。PTGBDを行うのはやりすぎ。
自己免疫性肝疾患のための試験は、他の自己免疫疾患のhistoryがあるので合理的。自己免疫性肝炎患者では、ANAは、一般的に陽性であるが通常、発熱はない。原発性硬化性胆管炎および原発性胆汁性胆管炎のような自己免疫性胆道炎も、胆汁うっ滞をきたす。胆管造影が正常であれば、基本的に原発性硬化性胆管炎は除外される。原発性胆汁性胆管炎の除外目的で抗ミトコンドリア抗体は有意義だろう。自己免疫性肝疾患は、細菌性胆管炎を合併しない限り発熱は認めない。患者の内服薬は市販薬も含めてきっちりと調べる必要がある。

 

 

○プレゼン

翌週中には、患者の発熱と肝炎は改善し胆汁うっ滞も徐々に改善。しかし、ビタミンKの投与にもかかわらず、INRが2.5と3.0の間で推移し、凝固障害が継続するため、肝臓移植センターに移された。
腹痛、頭痛、筋肉痛の訴えはなかった。既に熱はなく、黄疸はなかった。PTGBDチューブが入っている以外は特に変わりなかった。血算に変化はなく、末梢血塗抹標本は正常だった。AST39 ALT26 ALP89 T-Bil 3.5mg INR 2.7、フィブリノーゲン312mg/dL。セルロプラスミンおよびα-1アンチトリプシンは正常範囲内。フェリチン817μg/L 、鉄飽和度は20%であった(基準範囲、10- 47)。ANAはspeckled pattern.で160倍。、抗ミトコンドリア抗体検査は陰性だった。血清IgGレベルが1360mg.dl(基準範囲、672-1760)。肝炎の血清学的な検査は陰性でHIVも陰性。

単純ヘルペスウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、およびEBVのためPCRは陰性だった。精製タンパク質誘導体およびインターフェロンγ放出アッセイでのツベルクリン反応検査は陰性。経胸壁心エコー検査は正常。

○コメント
ビリルビンは、多くの場合、急性肝炎後に正常化するために時間がかかるが、肝臓が回復した場合はビタミンKの複数回投与にも関わらず凝固障害が遷延するのは合わない。

AST/ALTが減少し凝固障害が遷延する場合は完全な幹細胞の壊死が示唆されるが、その場合はよりシックでビリルビンは徐々に上昇するはず。もし胆管炎が存在した場合には、胆管の減圧および抗生物質は、効果的であった可能性がある。総胆管結石の自然経過として、肝機能の迅速な正常化を認めることはあるが、画像的に確認されていない。

レプトスピラ症は、ピペラシリンによって治療されていてもよいかもしれない。肝機能は、患者が野兎病や真菌症を持っていた場合には、正常化しないだろう。CMVは胆汁うっ滞性肝疾患の他の原因であり、子供たちとの接触のリスクは有るが、検査として捉えらられていない。

toxic or 虚血性の肝炎は、self limitedである。ANA陽性であり自己免疫性肝炎も考えるが、IgGのレベルが正常範囲である点が合わない。

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○プレゼン
B型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルス血清PCRは陰性。抗平滑筋抗体価は160倍だった。

肝生検ではリンパ球が小葉に浸潤し、門脈に非壊死性肉芽腫を認めた(A)。

さらにfibrinのリングを伴った肉芽腫も認めた(B) 脂肪肝は認めるが、脂肪性肝炎やMTXによる薬剤性肝障害の所見はなかった 明らかな壊死や線維化はなく、少数の形質細胞を認めた 抗酸菌・真菌の染色は陰性。 CMVの免疫染色も陰性 慢性の胆道閉塞やリンパ増殖性疾患の所見もなし

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○コメント
肝臓の組織学的検査では、リンパ組織球浸潤といくつかの小さな非壊死性肉芽腫およびフィブリンリングを伴った肉芽腫を示している。特定の肉芽腫の変異体と特定の条件に古典的な関連性がある。(例えば、非壊死性肉芽腫及びサルコイド、壊死性肉芽腫と結核、およびフィブリンリングを伴った肉芽腫とQ熱)。これらの組織学的所見は、必ずしも特異的ではない。
自己免疫性肉芽腫性疾患は関節リウマチの併存と自己抗体の存在から疑うべき。サルコイドーシスを示唆する所見はなく、原発性胆汁性胆管炎は抗ミトコンドリア抗体因陰性であり胆汁の障害も病理学的に認めない。巨細胞性動脈炎は時々肝肉芽腫を引き起こすが、免疫抑制を行わずに頭痛や筋肉痛が改善することが考えにくい。
リンパ腫は肉芽腫性肝疾患を引き起こす可能性があるが、肝外リンパ腫の証拠がなく、生検でリンパ腫を示唆する所見はなく、リンパ腫が原因だった場合に重度の肝障害が自然に改善することは考えにくい。
免疫抑制、高熱、著名な寝汗、癌ではないこと考えると、感染症が肉芽腫性肝炎を説明する理由になりうる。肝外(例えば、肺)感染の再活性化や一次感染には症状が合わずで、真菌染色は陰性。結核の暴露もなく結核菌の染色もそまらず、培養も陰性である。

家畜(例えば、ウシ、ヤギ、羊)への曝露は、ブルセラ症またはQ熱から肉芽腫性肝炎を考えることが出来る。ブルセラ症は家畜(またはその未殺菌乳製品)との直接接触に反応して発生するものの、Q熱は動物との既知の直接接触が存在しない場合にも発生する。肝生検上の特徴的な組織所見(リング状の肉芽腫)からもQ熱を考える。

 

○プレゼン

Coxiella burnetiiに対する血清学的な検査は陽性だった。患者は、2週間のコースのドキシサイクリンで治療し、症状および凝固能は改善した2週間後、仕事に戻り、メトトレキサートとエタネルセプトの投与を再開した。何の後遺症も残らなかった。

 

○解説
診断未確定の肝障害および自己免疫抗体の存在は、自己免疫性肝炎を考えた。肝生検は、自己免疫性肝炎の典型的な織学的所見ではなく、肉芽腫性炎症およびフィブリンリング肉芽腫が判明した。これらの所見は、Q熱の特徴。
肉芽腫変化は、感染、自己免疫、悪性、薬物誘発性、または特発性肝障害で生じる。
播種性真菌およびマイコバクテリア感染は、感染性肉芽腫性肝炎の症例の大多数を占めている。他には野兎病菌の感染症、エルシニア症、放線菌症、バルトネラ感染、ブルセラ症。ウイルス感染症(例えば、CMVまたはEBVによる感染)も考えられる。
肉芽腫性肝炎の非感染性の原因は、原発性胆汁性胆管炎、血管炎、薬物(例えば、アロプリノール)により誘発される肝障害、異物の注入、いくつかの原発性肝腫瘍、およびリンパ腫が含まれる。サルコイドーシスは、古典的には類上皮細胞の非壊死性肉芽腫と関連がある。
フィブリンリング肉芽腫は、中心の脂肪およびフィブリンリングと炎症性肉芽腫によって特徴づけされている。Q熱だけの特徴ではないが、フィブリン環状肉芽腫を有する23人の患者のうち10人(43%)がこの感染症を有することが示された。フィブリンリング肉芽腫はまた、リーシュマニア症、トキソプラズマ症、EBV肝炎、およびアロプリノール過敏症でも起こりうる。
Q熱は、細胞内細菌によって引き起こされる世界的な人獣共通感染症である
ほとんどの人は後に無症候性のまま。潜伏期間は2-3週間。

急性Q熱は、高温、頭痛、肺炎、肝炎によって特徴付けられる。心筋炎および髄膜脳炎はまれな合併症。慢性Q熱は免疫不全患者や妊娠中の患者でリスクが高い。血管内感染症では内膜炎を認める。 血清学的検査は急性および持続性感染の診断に有用。ドキシサイクリンは、心内膜炎なしで妊娠していない成人で選択される抗生物質

ANA陽性とこの患者における抗平滑筋抗体価、ならびに自己免疫疾患のhistoryがあるので、発熱や胆汁うっ滞が非典型的であると認識されていたにもかかわらず、自己免疫性肝炎と考えられた。自己免疫性肝炎の診断は自己抗体(ANAおよび抗平滑筋抗体)、高IgGレベル、ウイルス性肝炎の不在、および組織学的所見の存在を必要とする。生検結果から、この診断を除外した。自己抗体は、多くのリウマチ症状の特徴であるだけでなく、悪性状態、薬物療法、および感染症に関連して存在する。 ANAは、Q熱の患者の12〜35%で報告されており、抗平滑筋抗体は、30〜65%で報告されていいる。9リウマチ因子、抗好中球細胞質抗体、および抗二本鎖DNA抗体もまた、一部の患者で報告されている。
組織学的所見におけるリングが真実であった。