GIMブログ(あくえりの暢気にジェネラル)

JCHO東京城東病院総合診療科の森川暢によるブログです。総合内科と家庭医療が融合した、病院総合医の理想像を追い求めています。夢は、理想的な病院総合医のシステムの確立と普及です!今日の時代におけるGIMは、診断学や内科マネージメントに加えて、家庭医療学を専門にする必要があると考えています。このブログでは徒然なるままに思うところを書いていきます。

片側性の仙腸関節炎

若年男性の片側性仙腸関節炎 鑑別は??

 

片側性なら普通は感染症を考える。 

片側性仙腸関節炎でまず思いつくのはブルセラ症

ただ、国内発症は極めて稀。

獣医の業界で話題になっている。

http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM0903_03.pdf

 

 

ブルセラ症のsystematic review(というかこんなのあるのね。)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3516581/pdf/pntd.0001929.pdf

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やはり、日本では極めて稀

 

ブルセラ症自体が多彩な症状をきたす。関節炎は必須ではないf:id:aquariusmedgim:20170317190534p:plain

 

 

 

ブルセラ性の関節炎のレビュー

症状としては発熱はほぼ認める。ただ腰痛は6割ほど。

筋肉痛や頭痛、食欲不振など全身症状も認める

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診断にはELISAが有用 血培は長期間の培養が必要 感度は高くない

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罹患関節は仙腸関節、膝、股関節で多い

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では感染性仙腸関節患者で多い原因は?

感染性仙腸関節炎患者21人を解析した中国からの報告(原文は中国語。。)

[Analysis of clinical and imaging characteristics of infectious sacroiliac arthritis and review of literatures]. - PubMed - NCBI

 

男性が9人、女性が13人。

(85.7%)の患者は片側性の仙腸関節炎。

10人(48%)が非ブルセラ・非結核仙腸関節炎(ISI)

8人(38%)が結核性(TSI)

3人(14%)がブルセラ(BSI)

ブルセラ・非結核仙腸関節炎ではCRPやESRが著増したと。

 6人のISI、2人のBSI、および4人のTSIを含む12人の患者が病理学的に診断された。

では、ブルセラ・非結核仙腸関節炎(ISI)とは??

おそらく、化膿性の仙腸関節炎のことと思われる。。

 

 

 化膿性仙腸関節炎の報告は、2007年の日本からの報告によると化膿性仙腸関節炎 は 145例(小児 81例)の文献報告がされており、稀な疾患。

http://www.jspid.jp/journal/full/01902/019020175.pdf

さらに多彩な症状をきたしうるため、診断が難しいと。

感染経路は、皮膚・血流感染・打撲などの外傷があげられる。

腹膜刺激徴候を有する強い腹痛を伴うこともある。

起因菌としてはブドウ球菌が最多。

 

 

Pregnancy-Associated Pyogenic Sacroiliitis: Case Report and Review

妊娠関連の化膿性仙腸関節炎レビュー。

平均年齢は25.4歳。

妊娠とや産褥、流産後との関連がある。

リスク因子として、injection drug、感染性心内膜炎、尿路感染、子宮内膜炎など。

 

●臨床的な特徴

大部分の症例(66.7%)は、急性発症(<7日間)

潜伏期間は、2〜32日。

局所の痛み:100%
仙腸関節の圧痛:80%
歩行困難:47%

33.3%で発熱がなかった。

なお、血培の陽性率は40%、関節液の培養陽性率は75%とされている。

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/63/2/63_200/_pdf
次に整形外科からの報告

大腿から下腿への関連痛が化膿性仙腸関節炎では認められるf:id:aquariusmedgim:20170317195009p:plain

診断にはMRIが有用

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仙腸関節の炎症が仙骨腸腰筋など周囲の組織へ波及しうるため、多彩な症状を呈すると考えられている。

なお、化膿性仙腸関節炎は30歳未満が全体の80%を占める。

これは仙腸関節の可動性および血管新生が同年代でピークだからであると考えられている。

 

 

 

下記の報告のように坐骨神経痛と誤診されることもある。

Postpartum septic sacroiliitis misdiagnosed as sciatic neuropathy. - PubMed - NCBI

 

 

 

60歳以上は全体の3%のみという報告もある。

http://www.semarthritisrheumatism.com/article/S0049-0172(96)80010-2/abstract

 

ということで。。。
片側性仙腸関節炎をみたら、感染症を考える。
化膿性と結核ブルセラを考えるが、ブルセラは少ない。
化膿性仙腸関節炎は若年者に多く、坐骨神経痛と誤診されうる。

 


MR imaging of septic sacroiliitis. - PubMed - NCBI
化膿性仙腸関節MRI診断のまとめ。



では、片側性の強直性脊椎炎はあるのか?
pubmedで引っかかったのは主だったのは下記の報告のみ。非常に稀。
[An atypical case of ankylosing spondylarthritis with unilateral sacroioliac arthritis]. - PubMed - NCBI