GIMブログ(あくえりの暢気にジェネラル)

JCHO東京城東病院総合診療科の森川暢によるブログです。総合内科と家庭医療が融合した、病院総合医の理想像を追い求めています。夢は、理想的な病院総合医のシステムの確立と普及です!今日の時代におけるGIMは、診断学や内科マネージメントに加えて、家庭医療学を専門にする必要があると考えています。このブログでは徒然なるままに思うところを書いていきます。

リアルワールドでのワーファリンはDOACに劣らない

最近話題のstudy。曲がりなりにも読んでみました。

 

Current Status and Outcomes of Direct Oral Anticoagulant Use in Real-World Atrial Fibrillation Patients ― Fushimi AF Registry ―

community basedの後ろ向き研究

京都における心房細動の患者を検討

多施設研究(80施設)

3731人の経口抗凝固薬使用患者のデータをフォローしている。

 

 

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ワーファリン、DOAC、非抗凝固でベースラインを比較。

リアルワールドでの現状を反映し、高齢者(73.6±11.0歳)、多くの合併症、高い平均CHADS2スコア(2.0±1.3)を有している。

DOAC群は最も若く(72.0±10.3歳)であり、 最も体重が重い(62.0±12.7kg;体格指数、23.9±3.9kg / m 2)。

平均CHADS2スコアおよびHAS-BLEDスコアは、 ワルファリン群で最も高かった(CHADS2スコア:2.3±1.3; HAS-BLEDスコア1.7±0.9)。

脳卒中の既往歴: ワルファリン群で最も高かった(24%)。 重大な出血の既往歴は群間で同様であった。 抗血小板薬の使用は、非OAC群(34%)において多かった。 ワルファリン群の平均PT-INRは1.83±0.47であった。

→ワーファリンはより高齢でより痩せておいて、CHADS2スコアおよびHAS-BLEDスコアも高く、脳卒中の既往例を持っている傾向がある

→ワーファリン群はよりhigh riskの傾向?

 

 

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DOAC発売後DOACの使用は徐々に増加し2015年の地点で、ワーファリン37%、DOAC26%、非抗凝固36%

→なお抗凝固療法を行う割合自体がDOACの登場で増えている印象。

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→DOACはCHADS2 scoreに関わらず処方されている

 

 

3年間のフォローでStroke/systemic embolismが224人、major bleedingが177人 

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Cox proportional hazards modelを使用したところ、DOACはワーファリンと比べたところ

stroke/SE events (HR, 0.95; 95% CI: 0.59–1.51, P=0.82)

 major bleeding events(HR, 0.82; 95% CI: 0.50–1.36, P=0.45).

リアルワールドではDOACはワーファリンに比べて、stroke/SE eventおよび major bleedingにおいて特に違いがない

 

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なお、ダビガトランの9割、リバロキサバンとアピキサバンの4割強は低容量処方。

さらに低容量処方のうちダビガトランの3~4割、リバロキサバンの5割とアピキサバンの6割が添付文章に従わない低容量処方

 

◯感想

実臨床でもINRが安定しているワーファリン内服患者は、安定して経過することが多い印象。

DOACの低容量処方は確かに臨床的な実感としても多い(アピキサバン5mg/dayなど)

本studyのPT-INRは1.83±0.47。高齢者ならINR1台後半で維持するという臨床的な感覚にも矛盾しない。

またワーファリンは高齢者やリスクが高い患者で処方されているにも関わらずDOACと変わりがないのならむしろ、ワーファリンのほうが安全性が高い??

最近、安易にDOACが処方される傾向に対して一石を投じる意味では意味のあるstudy。

ただ抗凝固療法に対する敷井を下げた意味ではDOACの功績はあるかもしれない。

INRが安定しない or INRのフォローが困難という状況以外ではまずワーファリンのほうがよいのかも。

経済的なことを考えれば、DOACもワーファリンもoutcomeに大きな違いがないなら、安価なワーファリンのほうが良さそう。

特に高齢者や低体重(CCr低下)であればワーファリンのほうが安全かも。

ただ今後の追試の結果も待つ必要はあるし、INRが安定しない、採血フォローが難しいという場合はDOACが良いかもしれない。