GIMブログ(あくえりの暢気にジェネラル)

JCHO東京城東病院総合診療科の森川暢によるブログです。総合内科と家庭医療が融合した、病院総合医の理想像を追い求めています。夢は、理想的な病院総合医のシステムの確立と普及です!今日の時代におけるGIMは、診断学や内科マネージメントに加えて、家庭医療学を専門にする必要があると考えています。このブログでは徒然なるままに思うところを書いていきます。

39歳のジンバブエの男性のsevereな頭痛

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以下ネタバレ注意

 

1ヶ月前からの頭痛。徐々に増悪傾向

入院当日に嘔吐。

頚部痛も伴い、羞明もあった。

聴力障害、視力症状、痙攣、皮疹なし

外傷もなく、体重減少、寝汗、咳、呼吸困難なし

もともとNIDDMと診断され、メトホルミンとSU薬が処方

HVIの検査はしたことがなく他に薬は飲んでない。

トラックの運転手 妹がNIDDM タバコ・アルコール無し

BT36.8度 他バイタル安定

意識清明 neck stiffnessあり 項部硬直も

他身体所見問題なし

マラリアを示唆する塗抹所見なし

ルンバール→初圧25cm 

見た目clear 

細胞数増加なし。 蛋白47.5と軽度上昇

→ひとまずペニシリンとクロラムフェニコールがスタート

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◯感想

どう考えてもまずは髄膜炎を考えるが所見が乏しい。

ならば髄膜炎の鑑別疾患を考えると話が速い(Pivot and Cluster)

特に無菌性髄膜炎の鑑別疾患

高次脳機能障害はないので、脳炎の鑑別はいきなりは考えない

 

感染症

・細菌性:細菌性髄膜炎(Must rule out)

・ウイルス性:ウイルス性髄膜炎 HIV含む

結核結核髄膜炎

・梅毒:神経梅毒
・真菌:クリプトコッカス

・その他:ライム病

 

自己免疫疾患

・SLE、ベーチェット

悪性腫瘍

薬剤

・NSAIDS

・ST合剤

 

gradualであり通常の髄膜炎の経過ではない

→梅毒、真菌、結核、悪性腫瘍など

あと、こういう変な髄膜炎ではHIVも考えたい。

 

 

髄膜炎の鑑別

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◯実際の症例の思考過程

→細菌性髄膜炎の髄液所見らしくはない

またAcute HIV infectionであれば、細胞数増加や皮疹、咽頭痛などが出現するが特にそれもない。

 

ただ地域がら、HIVの流行地域。

HIVがあるとすれば、亜急性髄膜炎の鑑別はクリプトコッカス、結核の2つをまず考える

このケースでは髄液の白血球が全く動いていない。

また結核では髄液の血糖が低下することが多い

これは結核よりもクリプトコッカスをどちらかというと示唆

DM+HIVはクリプトコッカスのリスク

ただ実際は区別するのが難しいので、髄液クリプトコッカス抗原や墨汁染色が必要

 

◯結局

HIVは陽性、最終的には慢性HIV感染症に合併したクリプトコッカス髄膜炎と診断。

 

クリプトコッカス抗原の結果が分かる前に、抗真菌薬も開始

ちなみにリソースが限られた国ではアムホテリシンB(リポゾーム製剤)+フルシトシンではなく、アムホテリシンB+フルコナゾール高用量になるらしい。 フルシトシンは高価

アムホテリシンBでは電解質異常が必須、なので電解質の補正とモニタリングはリソースが限られた状況での生存率を上げる

髄液圧が高いので、髄液を治療的に頻回に抜く必要がある

このような髄液のWBCが低い状況でHIVの治療をはじめると死亡率が上がるので、抗真菌薬をはじめてから4-6週後にHIVの治療を始めるべきとされている