GIMブログ(あくえりの暢気にジェネラル)

JCHO東京城東病院総合診療科の森川暢によるブログです。総合内科と家庭医療が融合した、病院総合医の理想像を追い求めています。夢は、理想的な病院総合医のシステムの確立と普及です!今日の時代におけるGIMは、診断学や内科マネージメントに加えて、家庭医療学を専門にする必要があると考えています。このブログでは徒然なるままに思うところを書いていきます。

総合診療医はベンチャー

総合診療専門医が来年度より開始されることがほぼ決定された。

総合診療専門医は基本的には、内科1年、救急3ヶ月、小児科3ヶ月、残りは総合診療Ⅱ(病棟・病院)、総合診療Ⅰ(診療所・在宅)、選択研修で合計3年で構成される。

既存の家庭医療専門医をベースに、内科を強化したプログラムであり、バランス良くローテーションが可能になっている。

とはいえ、全く新しい制度なので、初期研修医2年目の先生にとっては不安があると思う。

 

確かに将来、サブスペシャリティ内科に進む先生は新内科専門医プログラムに行くべきだと思う。

総合診療専門医からサブスペシャリティ内科への道筋が不透明であるからだ。

とはいえ、開業を考えている、総合診療・総合内科的なことをやりたい、地域医療に貢献したい、地元の小規模病院で内科医として勤務したい。

専門医志向が強くなく、そのようなニーズがあれば総合診療専門医は選択肢の1つに入る。

新内科専門医のプログラムでは少数のプログラムを除いて、基本的には専門内科のローテーションを行うことになる。

そのようなローテーションだけでは、総合診療的な考え方を身につけることは困難かもしれない。

高齢化社会ではマルチモビディティが重要なテーマになる。

先日、総合診療という雑誌でもテーマとして取り上げられていた。

http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=88968

 

高齢化社会では、例えば心不全COPD、糖尿病を合併した患者が脳梗塞を起こし、さらに誤嚥性肺炎になるという生物学的問題が複雑な例は枚挙に暇がない。

さらに、認知症とせん妄も合併し高齢独居でキーパーソンが不在といった精神的・社会的問題が合併すれば、さらに複雑性が高まる。

このようなマルチモビディティ、複雑性に対して通常の内科ローテーションの研修だけでは物足りない可能性はある。

マルチモビディティおよび複雑性を扱おうと「意識する」環境と、それらに長けた指導医によるフィードバックが必要であるからである。

仮に内科のプログラムであっても、総合内科的な素養を持ったプログラムでの研修が必要だろう。

 

新総合診療専門医とは誤解を承知で言えばマルチモビディティ、複雑性の専門科であり高齢化を迎えるこれからの社会で必要とされる人材だと思う。

また、今後AIが毎違いなく医療に導入される。

AIが導入された未来における医師の役割として総合診療専門医が益々クローズアップされるはずだ。

つまりAIが下した医学的な判断に関して患者の意思決定支援をする存在として、生物学的問題だけでなく社会的問題や精神的な問題にもアプローチでき、かつ主治医として患者に寄り添う総合診療専門医が必要となるかもしれない。

 

総合診療専門医に対するネガティブキャンペーンをする専門医も残念ながら存在すると聞く。

今の不透明な状況では内科などの比較的定まったキャリアパスを選ぶほうが確かに無難だと思う。

とすれば、総合診療専門医は選択すべきではないのだろうか?

 

先日の勉強会で、とある大御所の先生が、総合診療医はベンチャーだと仰っていた。

そもそも、新しい分野を開拓することにはリスクは付きものだが、それを克服し前に進むことをベンチャー精神と言うのだろう。

今は世の中を席巻しているアップルなどのIT企業も最初はベンチャーとして批判を受けていた。

総合診療専門医は未開の地だからこそ、可能性があるのだと僕は信じている。