読書感想文 あめいろぐホスピタリスト
https://www.amazon.co.jp/あめいろぐホスピタリスト-あめいろぐ・シリーズ-石山-貴章/dp/4621302787
献本御礼
アメリカでホスピタリストとして働いた経験がある日本人医師による著書であり、楽しみにしながら読ませていただきました。
結論から言うと、素晴らしい本です。
日本のこれからの、ホスピタリスト・病院総合診療の指針になると言っても過言ではないと思います。
最初にホスピタリストが必要は理由は、high value careと2025年問題であると強調されていますが、その通りだと思います。
日本には専門医が多すぎ、満遍なく内科を診れる医師つまりホスピタリストの需要が高まると筆者は断言してます。
これもその通りでさらに踏み込んで森川の私見を述べれば、専門医は専門医にしか出来ない手技や技能に集中するほうがおそらく病院経営上効率が良いと考えます。
例えば、循環器内科医は心臓カテーテルやアブレーション、重症心不全のコンサルテーション業務、消化器内科医はESD、ERCPなどを含む内視鏡、呼吸器内科医は肺癌の化学療法や気管支鏡など。。
それらは専門医にしか出来ない手技や技能である一方、通常の内科病棟管理に関しては非専門医であるホスピタリストに任せるほうが効率的だと思います。
特に、働き方改革で医師の時間が有限であり貴重になる一方であることを考えると、これらの専門医が片手間に病棟業務を行うのは専門医の有効な活用方法とは言えません。
そこでホスピタリストが関与することでより効率よく専門医が専門手技に集中し、より効率的な病院経営が可能になると思われます。
ホスピタリストは真に貴重な専門医をよりよく機能させるためのサポーターになるのだと思います。この専門医には当然、外科も含まれます。
これは、本書で周術期管理が1章を設けて詳細に記述されていることからも明らかです。
また本書では各論的な問題としてDVT、血糖マネージメントなどが挙げられています。
これらの章立てを読んで感じることは、標準的治療が徹底されているということです。書いている内容自体に新規性があるわけではないのですが、エビデンスに基づく治療の標準化が強調されており、個人の裁量が良くも悪くも大きい日本のプラクティスと対照的だと感じました。
筆者はホスピタリストはスペシャリストではなく当たり前のことを当たり前におこなうだけであるとご謙遜されていますが、個人的には横断的能力のスペシャリストと言っても過言ではないのではと感じました。
これは、「病棟診療のコンダクター」という石山先生のお言葉に端的に表れていると感じました。
それを象徴するように後半は、周術期管理、老年ケア、緩和ケア、医原性トラブルへの対応、医療の質など横断的な分野が強調されています。
特に周術期管理は、きちんと系統的に勉強したことがなかったので、とても参考になりました。
野木先生のエビデンスとホスピタリストの実践に基づく記載に圧倒されるとともに、先に述べたエビデンスに基づく標準化が徹底されていて、システムとしてのアメリカの医療の先進性を感じました。
この章立てだけでも、ホスピタリストが何に重きを置いているかが伝わります。
つまり、難しい奇病を診断することがホスピタリストの業務の本質ではないとうことかと思います(確かに診断は楽しいのですが。。)
石山先生も臨床推論の醍醐味を強調されていますが、「当たり前の診断を当たり前に病歴と身体診察を中心に診断する」というスタンスが垣間見えます。
そして、最後のホスピタリストが身に着けるべき「非臨床スキル」の項目が秀逸です。
アメリカのホスピタリストの学術団体であるSHMではホスピタリスㇳのコアコンピテンシーとして3つの項目を提唱しています。
①臨床知識
②手技
③医療システム
最後の章は、この③医療システムに焦点を当てて記載されています。
この章はホスピタリストという医師の総括とされています。つまり、ホスピタリストの本質がこの章で語られているということになります。
具体的には、コアコンピテンシー、コミュニケーションスキル、バランス感覚、リーダーシップ、多職種マネージメント、教育、プロフェッショナリズム、コスト意識の8つの要素が語られています。
病気をたくさん知っているという知識面での能力は前述のコアコンピテンシーのひとつに過ぎないとも言えるかもしれません。
そしてホスピタリストの仕事の肝はコミュニケーションとされています。
つまり自分自身がプレイヤーになるというよりも、マネージャーとして専門医、コメディカル、患者・家族とうまく連携する能力が要求されるということです。
実際にコミュニケーションやマネージメントが好きな人がホスピタリストに向いており、それらが苦手な人には辛いのではという記載があります。
筆者のお人柄からもそのようのコミュニケーションの重要性が伺えます。
このような能力は、大学病院のような大病院であっても、当院のような100床規模の小規模病院でも同様に必要であるという点で、ホスピタリストの本質的能力ではないかと考えています。
ホスピタリストの専門性は横断的な能力と言えるかもしれず、家庭医とも親和性が高そうな印象です。
示唆に富む非常に素晴らしい本であり、一読を勧めます。
本当に、ありがとうございました。