GIMブログ(あくえりの暢気にジェネラル)

JCHO東京城東病院総合診療科の森川暢によるブログです。総合内科と家庭医療が融合した、病院総合医の理想像を追い求めています。夢は、理想的な病院総合医のシステムの確立と普及です!今日の時代におけるGIMは、診断学や内科マネージメントに加えて、家庭医療学を専門にする必要があると考えています。このブログでは徒然なるままに思うところを書いていきます。

PMRと悪性腫瘍の関係

悪性腫瘍の合併と言えばRS3PEが有名ですが、PMRに悪性腫瘍は合併するか?

Is cancer associated with polymyalgia rheumatica? A cohort study in the General Practice Research Database | Annals of the Rheumatic Diseases

 

イギリスのコホート研究。

以前に癌や血管病変を指摘されていないPMRでコルチコステロイドで治療された患者を対象としている。最初に癌と診断、死亡、データベースに記録されなくなるまでフォローした結果

 

ベースラインは両群で同等

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7.8年のフォローで、PMRでは23.2%,non-PMRでは19.5%の癌が発生している。

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PMRと診断後最初の6ヶ月にPMRはnon -PMRに比べて調整したHRは1.69と、PMRで癌の発生が高い傾向

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消化器、皮膚、前立腺、肺、乳癌、生殖器、血液、リンパ腫、泌尿器、神経、その他などが原因となりうる。

前立腺癌とリンパ腫の割合はPMRで高いかもしれない

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PMRと診断をした or PMRのような症状を見たときも慎重に癌のr/oを行うべきと言える。

造影剤腎症 生理食塩水予防効果 RCT

http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)30057-0/abstract

 

Prophylactic hydration to protect renal function from intravascular iodinated contrast material in patients at high risk of contrast-induced nephropathy (AMACING): a prospective, randomised, phase 3, controlled, open-label, non-inferiority trial

 

P eGFR:45〜59 mL /分/1.72m² (糖尿病 or >75歳、貧血

、循環器疾患、NSAIDS、利尿薬)  or eGFR:30から45mL /分1.72m²
eGFR 30以下、腎代替療法ICU患者、緊急の造影CTなどは除外
I    生理食塩水による予防投与をする
C 予防投与を行わない
O 造影剤腎症の発生
非劣性試験 open-label  
前向きのRCT
数は足りている

下記の表からもベースラインは両群で変わりなし
比較的高齢者が多い傾向

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●結果

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造影剤腎症発症は両群で変わりなし。

 

 

心不全は明らかに生理食塩水群で多い

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コストも生理食塩水群で高い

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●結論

今回のinclusionに当てはまるような待機的造影CTで、腎機能障害が比較的軽度であれば、生理食塩水の予防は必ずしも必要ないかもしれない。

 

PMRにおけるエコー所見について

先日、PMRで綺麗なエコー所見を認めた方がいました。

PMRは滑液包炎が前面に出る病態でエコーでもそれを反映するようです。

PMRのスコアリングとしては2012年の下記の論文が有名です。

2012 provisional classification criteria for polymyalgia rheumatica: a European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative | Annals of the Rheumatic Dis

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上記のように臨床所見が重要視されていますが、エコー所見も重要視されています。

 

Polymyalgia Rheumatica - Physiopedia, universal access to physiotherapy knowledge.

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左が上腕二頭筋健、右が三角筋下滑液包になります。

 

今回、上腕二頭筋健の所見が綺麗に見えました。

力こぶを作るようにした時に、上腕二頭筋腱に負荷がかかります。

ちょうど、下記図の赤いところです。

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ここにエコーを当てると下記上図a のようなエコー画像が綺麗に見えました。

健周囲にfluid貯留が見えます。。

 

 

 

他には三角筋下の滑液包炎もエコーで上図bのように見えるようです。

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ひとまず、上腕二頭筋健のエコーはとても簡単なので、PMRを疑えばひとまず行うのは良いと思いました。

 

 

 

 

 

腸腰筋の石灰化

圧迫骨折+心不全で入院。

なぜか腸腰筋が石灰化している。

 

psoas abscess Calcification で検索。

意外にも腸球菌による腸腰筋膿瘍でも石灰化を生じうる

Calcified iliopsoas abscess caused by Enterococcus faecalis. - PubMed - NCBI

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ただ、やはり結核がヒットする。こちらは予想通り。

[Calcified tuberculous abscess of the psoas muscle. Apropos of a case]. - PubMed - NCBI

 

 

Psoas muscle calcification で検索してみる

Myositis ossificans in psoas muscle after lumbar spine fracture. - PubMed - NCBI

骨化性筋炎も原因となりうるとのこと。

 L3の圧迫骨折に続発して発症したとのこと。

最初は血腫? 後に石灰化が明らかに。

 CTガイドでの生検したら、新たな骨形成、骨格筋線維の萎縮および線維化。リンパ球の浸潤 。不規則な骨梁と線維芽細胞増殖が認められた。

2カ月後のフォローアップMRIおよびCTスキャンでは、以前の石灰化した腫瘤は認めなかった。

 

とうことで、腸腰筋の石灰化では細菌性膿瘍、結核性膿瘍だけでなく、骨化性筋炎も考える?

片側性の仙腸関節炎

若年男性の片側性仙腸関節炎 鑑別は??

 

片側性なら普通は感染症を考える。 

片側性仙腸関節炎でまず思いつくのはブルセラ症

ただ、国内発症は極めて稀。

獣医の業界で話題になっている。

http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM0903_03.pdf

 

 

ブルセラ症のsystematic review(というかこんなのあるのね。)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3516581/pdf/pntd.0001929.pdf

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やはり、日本では極めて稀

 

ブルセラ症自体が多彩な症状をきたす。関節炎は必須ではないf:id:aquariusmedgim:20170317190534p:plain

 

 

 

ブルセラ性の関節炎のレビュー

症状としては発熱はほぼ認める。ただ腰痛は6割ほど。

筋肉痛や頭痛、食欲不振など全身症状も認める

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診断にはELISAが有用 血培は長期間の培養が必要 感度は高くない

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罹患関節は仙腸関節、膝、股関節で多い

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では感染性仙腸関節患者で多い原因は?

感染性仙腸関節炎患者21人を解析した中国からの報告(原文は中国語。。)

[Analysis of clinical and imaging characteristics of infectious sacroiliac arthritis and review of literatures]. - PubMed - NCBI

 

男性が9人、女性が13人。

(85.7%)の患者は片側性の仙腸関節炎。

10人(48%)が非ブルセラ・非結核仙腸関節炎(ISI)

8人(38%)が結核性(TSI)

3人(14%)がブルセラ(BSI)

ブルセラ・非結核仙腸関節炎ではCRPやESRが著増したと。

 6人のISI、2人のBSI、および4人のTSIを含む12人の患者が病理学的に診断された。

では、ブルセラ・非結核仙腸関節炎(ISI)とは??

おそらく、化膿性の仙腸関節炎のことと思われる。。

 

 

 化膿性仙腸関節炎の報告は、2007年の日本からの報告によると化膿性仙腸関節炎 は 145例(小児 81例)の文献報告がされており、稀な疾患。

http://www.jspid.jp/journal/full/01902/019020175.pdf

さらに多彩な症状をきたしうるため、診断が難しいと。

感染経路は、皮膚・血流感染・打撲などの外傷があげられる。

腹膜刺激徴候を有する強い腹痛を伴うこともある。

起因菌としてはブドウ球菌が最多。

 

 

Pregnancy-Associated Pyogenic Sacroiliitis: Case Report and Review

妊娠関連の化膿性仙腸関節炎レビュー。

平均年齢は25.4歳。

妊娠とや産褥、流産後との関連がある。

リスク因子として、injection drug、感染性心内膜炎、尿路感染、子宮内膜炎など。

 

●臨床的な特徴

大部分の症例(66.7%)は、急性発症(<7日間)

潜伏期間は、2〜32日。

局所の痛み:100%
仙腸関節の圧痛:80%
歩行困難:47%

33.3%で発熱がなかった。

なお、血培の陽性率は40%、関節液の培養陽性率は75%とされている。

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https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/63/2/63_200/_pdf
次に整形外科からの報告

大腿から下腿への関連痛が化膿性仙腸関節炎では認められるf:id:aquariusmedgim:20170317195009p:plain

診断にはMRIが有用

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仙腸関節の炎症が仙骨腸腰筋など周囲の組織へ波及しうるため、多彩な症状を呈すると考えられている。

なお、化膿性仙腸関節炎は30歳未満が全体の80%を占める。

これは仙腸関節の可動性および血管新生が同年代でピークだからであると考えられている。

 

 

 

下記の報告のように坐骨神経痛と誤診されることもある。

Postpartum septic sacroiliitis misdiagnosed as sciatic neuropathy. - PubMed - NCBI

 

 

 

60歳以上は全体の3%のみという報告もある。

http://www.semarthritisrheumatism.com/article/S0049-0172(96)80010-2/abstract

 

ということで。。。
片側性仙腸関節炎をみたら、感染症を考える。
化膿性と結核ブルセラを考えるが、ブルセラは少ない。
化膿性仙腸関節炎は若年者に多く、坐骨神経痛と誤診されうる。

 


MR imaging of septic sacroiliitis. - PubMed - NCBI
化膿性仙腸関節MRI診断のまとめ。



では、片側性の強直性脊椎炎はあるのか?
pubmedで引っかかったのは主だったのは下記の報告のみ。非常に稀。
[An atypical case of ankylosing spondylarthritis with unilateral sacroioliac arthritis]. - PubMed - NCBI

 

 

巨細胞性動脈炎 mimic の感染性心内膜炎

高齢男性。

新規発症の両側頭部痛。炎症反応上昇。霧視。

跛行や側頭動脈の身体所見・エコー所見は乏しく、造影CTで大動脈炎の所見はなし。

 

ただ臨床的に巨細胞性動脈炎否定できず、専門科に転院。

そちらで眼底検査するも虚血性視神経症の所見なし。やはり側頭動脈のエコー所見も乏しく非典型的。

後日、当院および他院の血培からStaphylococcusが全セットで陽性。CNS。

感染性心内膜炎が疑わわしい。

 

GCA mimicのIEがあるか調べてみた。

 

そもそも、GCA視覚障害をきたすために出来るだけ早く診断して治療しないと視覚障害を残す。

高齢者の頭痛の鑑別で重要だが、緊張性頭痛likeの非典型例もあり診断が遅れてしまい、視力障害をきたす例もある。 J Neurosci Rural Pract. 2014 Oct-Dec; 5(4): 409–411.

Giant cell arteritis or tension-type headache?: A differential diagnostic dilemma

 

 

 リウマチ性多発筋痛症の鑑別疾患として常に感染性心内膜炎があがる。

全身の筋肉痛・肩・骨盤の痛み、ESR上昇でPMRと暫定診断されステロイドを開始し、後日IEであると判明した症例報告もある

Infective Endocarditis Presenting as Polymyalgia Rheumatica: Case Report | 2011, Volume 26, Issue 2 | Archives of Rheumatology

 

 

また実際にGCAのような症状を呈した感染性心内膜炎の報告もある。

Subacute bacterial endocarditis presenting as polymyalgia rheumatica or giant cell arteritis

Clin Exp Rheumatol. 2006 Mar-Apr;24(2 Suppl 41):S38-40.

3人のレンサ球菌による亜急性感染性心内膜炎によって、2人がGCAのような症状。1人がPMRのような症状を認めた。

GCAlikeの症状として頭皮の圧痛、顎の痛み、視覚症状を認めた。発熱がない患者もいた。3人のうち2人が実際にステロイドで治療された。

これらの症状は感染性心内膜炎の治療で全て消失した。

ということでGCAを考えれば必ずIEを考える必要がある。

 

 

なお、ややこしいことにGCAによってIEのようなvegutationをきたすという報告もあり。

Echocardiographic findings in patients with temporal arteritis: apropos of one case of temporal arteritis-associated verrucous (Libman-Sachs) endocarditis

Clin Exp Rheumatol. 2006 Mar-Apr;24(2 Suppl 41):S35-7.

 心エコーのなんらかの異常は25人のGCAのうち13人(52%)で認められ、これは健常者(12.5%)より明らかに比率が高いと。

 

 

 

なので、やはり血液培養がGCAやPMRの診断にはとても有用という基本が大切ということですね。。

 

 

 

 

 

 

左側憩室炎に対しては抗生剤治療は不要???

元々2012年に非複雑性の左側憩室炎に対して抗生剤を使わなくても合併症や再発が変わらないというRCTが発表された。

Randomized clinical trial of antibiotics in acute uncomplicated diverticulitis. - PubMed - NCBI

Br J Surg. 2012 Apr;99(4):532-9. doi: 10.1002/bjs.8688. Epub 2012 Jan 30.

 

P 左側憩室炎(非複雑性)

I 抗生剤使用

C 抗生剤不使用

O 合併症、再発、入院期間

多施設研究 合計623人を対象としたRCT

⇒結果アウトカムは両群で同等であった。

 

 

今回、同様に左側憩室炎に対して抗生剤を使用せずに様子を見たRCTが発表された為、読んでみた。

 

Randomized clinical trial of observational versus antibiotic treatment for a first episode of CT-proven uncomplicated acute diverticulitis. - PubMed - NCBI

Br J Surg. 2017 Jan;104(1):52-61. doi: 10.1002/bjs.10309. Epub 2016 Sep 30.

 

 

P CTで左側の非複雑性の急性憩室炎と診断された患者

 Hinchey stages 1a–b (膿瘍径5 cm未満)

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Ambrosetti CT criteria がmild

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Inclusion および Exclusionの一覧

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I  抗生剤群(amoxicillin–clavulanic acid) 合計10日 少なくとも最初の2日は点滴で その後内服にスイッチする。

C 経過観察群(外来治療の基準⇒通常の食事に忍容性があり、体温が38度以下、VAS score4未満,self-supportが出来る)

O primary outcome 6ヶ月の間の再発

secondory :再入院率、複雑性憩室炎(膿瘍、穿孔、閉塞/狭窄、憩室出血または瘻孔)、進行性憩室炎、憩室炎再発、重篤な有害事象、抗生物質治療の副作用、6ヶ月,12ヶ月の地点のS状結腸切除or 他の外科的/非外科的な介入、全死亡率

 

多施設の open labelのRCT

blindは出来ない 解析者のみblind

ブロック法でコンピューターを使ってランダム化

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ASA gradeが抗生剤群で少し高めだが概ねベースラインは同等

 

 

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ITT解析

 

非劣性試験 最低各々262人いれば良いとのこと。

Inaddition, the hazard ratio of recovery corresponding to a
non-inferiority margin of 5 days or less has been spelled
out here

 

結果

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primary outcomeは両群で特に変わりなし。 非劣性といえる。

 

 

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外来患者は経過観察群で多く、抗生剤の副作用は当然抗生剤使用群で多い。

有意差はないが、複雑性憩室炎や再入院率、S状結腸切除は抗生剤群で多いかも。。

 

 

○コメント

この結果だけを見ると軽症の左側憩室炎なら抗生剤を使用しなくてもよいかもしれない。

ただ、軽症の憩室炎であっても抗生剤なしで様子を見るのはかなり勇気がいる。

特に小さくても膿瘍形成していれば、なおさらそう。

実際、軽症の憩室炎なら外来で内服の抗生剤を使用すれば良いので、それくらいはリーズナブルな気がする。

今後メタアナリシスなどが出るまでは、なんとも言えないかも。

ただ、憩室炎であっても発症後ある程度時間が経っていて、抗生剤なしでも改善傾向の軽症のケースで、膿瘍形成も無ければ抗生剤無しで様子を見れるかもしれない。。