GIMブログ(あくえりの暢気にジェネラル)

JCHO東京城東病院総合診療科の森川暢によるブログです。総合内科と家庭医療が融合した、病院総合医の理想像を追い求めています。夢は、理想的な病院総合医のシステムの確立と普及です!今日の時代におけるGIMは、診断学や内科マネージメントに加えて、家庭医療学を専門にする必要があると考えています。このブログでは徒然なるままに思うところを書いていきます。

大学における総合診療

第15回 日本病院総合診療医学会 学術総会

 

第15回日本病院総合診療医学会。

「Where dreams come true
~市中と大学のコラボレーション~

という若手セッションのパネリストとして参加ました。

 

やはり、大学の力は偉大だと再認識しました。

市中病院でずっと来ていて臨床だけで、やってきましたが、アカデミックな面でも組織としての力という面でも大学で総合診療をやる意義について改めて重要性を再認識しました。

総合診療の領域で有力な市中病院と大学との連携に未来があるのではと夢が膨らみました。

市中病院でずっとやった後に大学に行くというキャリアもありなのかなと。

順天堂大学総合診療科の皆様が一致団結し、とても雰囲気良くされているのに触れ、そういう意味でも大学は良いかもしれないと思いを新たにしました。

得るものが多い学会でした。

本当にありがとうございました。

 

総合診療医はベンチャー

総合診療専門医が来年度より開始されることがほぼ決定された。

総合診療専門医は基本的には、内科1年、救急3ヶ月、小児科3ヶ月、残りは総合診療Ⅱ(病棟・病院)、総合診療Ⅰ(診療所・在宅)、選択研修で合計3年で構成される。

既存の家庭医療専門医をベースに、内科を強化したプログラムであり、バランス良くローテーションが可能になっている。

とはいえ、全く新しい制度なので、初期研修医2年目の先生にとっては不安があると思う。

 

確かに将来、サブスペシャリティ内科に進む先生は新内科専門医プログラムに行くべきだと思う。

総合診療専門医からサブスペシャリティ内科への道筋が不透明であるからだ。

とはいえ、開業を考えている、総合診療・総合内科的なことをやりたい、地域医療に貢献したい、地元の小規模病院で内科医として勤務したい。

専門医志向が強くなく、そのようなニーズがあれば総合診療専門医は選択肢の1つに入る。

新内科専門医のプログラムでは少数のプログラムを除いて、基本的には専門内科のローテーションを行うことになる。

そのようなローテーションだけでは、総合診療的な考え方を身につけることは困難かもしれない。

高齢化社会ではマルチモビディティが重要なテーマになる。

先日、総合診療という雑誌でもテーマとして取り上げられていた。

http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=88968

 

高齢化社会では、例えば心不全COPD、糖尿病を合併した患者が脳梗塞を起こし、さらに誤嚥性肺炎になるという生物学的問題が複雑な例は枚挙に暇がない。

さらに、認知症とせん妄も合併し高齢独居でキーパーソンが不在といった精神的・社会的問題が合併すれば、さらに複雑性が高まる。

このようなマルチモビディティ、複雑性に対して通常の内科ローテーションの研修だけでは物足りない可能性はある。

マルチモビディティおよび複雑性を扱おうと「意識する」環境と、それらに長けた指導医によるフィードバックが必要であるからである。

仮に内科のプログラムであっても、総合内科的な素養を持ったプログラムでの研修が必要だろう。

 

新総合診療専門医とは誤解を承知で言えばマルチモビディティ、複雑性の専門科であり高齢化を迎えるこれからの社会で必要とされる人材だと思う。

また、今後AIが毎違いなく医療に導入される。

AIが導入された未来における医師の役割として総合診療専門医が益々クローズアップされるはずだ。

つまりAIが下した医学的な判断に関して患者の意思決定支援をする存在として、生物学的問題だけでなく社会的問題や精神的な問題にもアプローチでき、かつ主治医として患者に寄り添う総合診療専門医が必要となるかもしれない。

 

総合診療専門医に対するネガティブキャンペーンをする専門医も残念ながら存在すると聞く。

今の不透明な状況では内科などの比較的定まったキャリアパスを選ぶほうが確かに無難だと思う。

とすれば、総合診療専門医は選択すべきではないのだろうか?

 

先日の勉強会で、とある大御所の先生が、総合診療医はベンチャーだと仰っていた。

そもそも、新しい分野を開拓することにはリスクは付きものだが、それを克服し前に進むことをベンチャー精神と言うのだろう。

今は世の中を席巻しているアップルなどのIT企業も最初はベンチャーとして批判を受けていた。

総合診療専門医は未開の地だからこそ、可能性があるのだと僕は信じている。

病院総合医による「総合内科病棟システム」

病院総合医と呼ばれる医師も、内科系の医師と家庭医療系(新専門医制度では総合診療専門医)の医師が混在しているのが日本の現状だと思います。

どちらのキャリアパスでもよいと思いますが、前者は内科に関しては深く診療できますが、後者のほうがより広い視点をもっているので、お勧めのキャリアパスです(個人的にも在宅・診療所や小児科の経験が無いことが負い目になっています。)

しかし、実際問題として潜在的に最もニーズがある分野は専門内科に将来進む医師に対して、幅広い視点の内科教育を行うという点だと考えています。

内科の各科をローテートをするのではなく、最低1年間は総合内科と専門内科がコラボをして全ての内科疾患を同時並行に診療するという「総合内科病棟システム」を構築することが必要なのではと考えています。

米国の内科病棟教育のようなイメージです。

そして、昨今はじまろうとしている内科専門医制度におけるJ-OSLERを用いた後期研修医教育は、この「総合内科病棟システム」にマッチするのではないかと考えています。

「総合内科病棟システム」は後期研修医にとって潜在的なニーズがかなりある分野で、実際にそれを実践できている病院が少数である点から、いわゆるブルーオーシャンになりうると考えます。

しかし、主に4つ課題があると思います。

1つ目は病院経営に対する貢献です。このようなシステムが後期研修医を集めるのに効果的だとしても、病院経営に対してマイナスに働くとすれば砂上の楼閣になるだけかと考えます。

2つ目は専門内科に対する貢献です。つまりこのシステムがあることで、専門内科と総合内科がお互いにwin-winの関係になる必要があるのだと思います。先日の勉強会では、総合診療センターを設立し、そのなかに総合内科だけではなく専門内科も入ってもらう案も出ていました。とはいえ、専門内科の先生方にはご自身の専門分野に集中して頂くような体制も必要だと思います。

3つ目は病院のトップの理解です。このシステムを作ることが病院のミッションとして重要であるというトップの強い意思が必要になると考えます。

4つ目はマンパワーの問題です。「総合内科病棟システム」を維持するためには、マンパワーが必要ですが、新内科専門医制度では1年間基幹病院外の勤務が義務付けられています。ここを補うためには診療看護師の活用がカギになるのではと考えています。

病院経営者の観点で考えても、「幅広く診療ができる内科医」というのが最も分かりやすく、実際に必要とされているニーズなのではと感じます。

総合診療医を増やす活動をしつつも、当面は最も病院側にも研修医にもニーズがある「内科」という分野でどのように存在感を示せるかが今後の課題だと考えています。

個人的には中~大規模病院で、このようなシステムを作ることが出来ればひとつのロールモデルになりうるのではと考えています。

 

第12回ジェネラリスト教育コンソーシアムの印象

先日、第12回ジェネラリスト教育コンソーシアムに参加してきました。

尾島様の許可を頂きましたので、参加者として寄稿した文章を共有します。

 

第12回ジェネラリスト教育コンソーシアムの印象

 

京城東病院総合内科 森川暢

 

第12回ジェネラリスト教育コンソーシアムが9月3日に東京大学で行われた。病院総合医に関するテーマで行われたが、奇しくもジェネラリストのこれからを考える会(GPEP)の会場でもあった場所で、GPEPの代表をされていた木村先生の講演で幕を空けた。歴史は螺旋を描きながら進んでいるのである。木村先生の講演の中でジェネラリストは、外見は違っても本質は同じであるという趣旨のスライドが出てきた。その本質は「たらい回しをしない」、「船頭≒主治医である」の2点である。病院総合医も家庭医も同じジェネラリストであるという藤沼先生の言葉で会は幕を閉めたが、徹頭徹尾今回のコンソーシアムのテーマはそこであったのだと思う。

 また病院総合医と専門医との関係性についても考えさせられた。本来、病院総合医がいることで専門医は仕事がしやすくなり、病院総合医は専門医からフィードバックを受けることが出来るというwin-winの関係性を構築することが理想である。しかし現実的には難しいという意見も散見された。川崎市立多摩病院の「総合診療センター」の取り組みが紹介されていたが非常に先進的であった。内科専門医も総合診療センターのチームの一員となり、同センターを病院の教育における中核に据えるという構想であった。さらに、そのような構想を実現させるためには院長をはじめとする病院の上層部の強力なバックアップが必要であることも必須条件であることも改めて認識した。

 実地で臨床をしている診療看護師の講演も非常に勉強になった。個人的には、病院で診療看護師のプログラム作成に携わり診療看護師と働いているためより切実な問題であった。診療看護師はこれらかの時代間違いなく必要で、病院総合医にとっては切っても切れない関係になる確信がある。その意味でも先見の明があるテーマであったと思う。

 最後に、日本の病院総合医は、従来の総合内科(GIM)と家庭医療学を融合させた医師像であると考える。大西先生のご講演で1999年の論文で同様の趣旨が発表されていることを知った。奇しくも私は、東京城東病院でGIMと家庭医療を融合させたコミュニテイホスピタリストという概念を打ち出したところである。やはり、歴史は螺旋を描きながら、しかし着実に前進しているのである。病院総合医の歴史を歩んできた先人たちの知恵や実戦を受け継いで、歩んでいこうと心を新たにした。

ブルーオーシャン戦略

知り合いの先生が勧めていたので、読み始めてみました。

https://www.amazon.co.jp/ブルー・オーシャン戦略―――競争のない世界を創造する-Harvard-Business-Review-Press/dp/4478065136

とても、面白いです。

まだ読み始めたばかりですが、プログラム運営に関して非常に役に立つ概念が含まれています。

総合内科の世界では、例えば診断学や病棟マネージメントなど内科学一般が重要視されています。

当院のような小規模病院は同じ土俵で戦うのではなく、新しい分野を開拓すべきなのではと思いました。

コミュニティホスピタリストは、そのような意味も込めています。

jyoutoubyouinsougounaika.hatenablog.com

個人的にはビジネスやMBAで多用されるフレームワークの概念を、図らずも診断学で多用しています。

総合内科、総合診療医は幅広い視点を持てる人たちだと思うので、やはり医学以外の考え方を吸収することも大切かもしれません。

慢性偽性腸閉塞(CIPO)について

慢性偽性腸閉塞について少しお勉強。

 

偽性腸閉塞症(pseudo-obstruction)は、腸管の蠕動運動が障害されることにより、機械的な閉塞機転がないにもかかわらず腹部膨満、腹痛、嘔吐などの腸閉塞症状を引き起こす疾患である

慢性偽性腸閉塞症 Chronic Intestinal Pseudo-obstruction (CIPO)とは | 慢性偽性腸閉塞のインフォーメーションサイト

 

つまり、慢性の大腸の著名な拡張があるにも関わらず上下部内視鏡、造影CTなどで異常がないというのが基本的な前提条件

 

このうち急性の偽性腸閉塞をOgilvie症候群、慢性の偽性腸閉塞を慢性偽性腸閉塞(Chronic Intestinal Pseudoobstruction:以下CIPO)と呼ぶ

 

慢性偽性腸閉塞の原因

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2712158/

f:id:aquariusmedgim:20170705163353p:plain

神経の問題、傍腫瘍症候群、DM、アミロイドーシス、薬剤性などが原因

実臨床では、薬剤性 神経疾患、DMが多い印象。

特に薬剤性は介入可能であり、必ず考える必要あり。

 

 

The great masquerader of malignancy: chronic intestinal pseudo-obstruction

f:id:aquariusmedgim:20170705163500p:plain

他にはMSA,パーキンソンなどの神経疾患

SLEなどの抗核抗体関連疾患

放射線治療後、先天性疾患なども原因に

 

●症状

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2712158/


再発性の腹痛、腹部膨満、便秘、嘔吐(無くても良い)、体重減少

拡張した腸管と著名なairの存在が重要

症状を繰り返すが、時に不必要な手術をされてしまうことも。

ただ、実際に症状が激しい場合は手術も必要。

 

進行性の病態で予後は不良で致死的になりうる

手術やTPNの合併症も多い

 

急性期はN-Gチューブを使って絶食、補液。

エリスロマイシンやネオスチグミンなどで腸蠕動を賦活化

症例によっては腸内細菌の増殖を防ぐために全身性 or 非吸収性抗菌薬を

 

慢性期にはmetoclopramide, domperidone, bethanechol or neostigmineなど腸蠕動促進薬を使う。エリスロマイシンも使用する。

 

なお慢性偽性腸閉塞は傍腫瘍症候群としても知られる

特に抗Hu抗体(小細胞癌に特徴的)が傍腫瘍症候群関連CIPOで高率に陽性に

The great masquerader of malignancy: chronic intestinal pseudo-obstruction



実際に小細胞癌に難治性CIPOを合併したが、小細胞癌の治療をするとCIPOが改善したという症例報告も(やはり抗Hu抗体も陽性)

http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/048060439j.pdf

ということでCIPOを診断したら傍腫瘍症候群などの原因検索が大切ということ。

非定型抗精神病薬によるAIN?

とある非定型抗精神病薬使用若年者

ただ、NSAIDSを直前に使用。

腎腫大、腰痛、CRP微増、尿異常(蛋白、RBCWBCいずれも軽度)

 

Krishnan, N., & Perazella, M. A. (2015). Drug-induced acute interstitial nephritis: Pathology, pathogenesis, and treatment. Iranian Journal of Kidney Diseases, 9(1), 3–13. 

https://doi.org/10.1038/nrneph.2010.71

 

キーポイント 

 

・薬物誘発性のAINは、AKIの比較的コモンな原因。
・AINの臨床症状は、薬剤の種類によって異なる。
・AINの確定診断には、腎臓生検が必要。
・病態進行の早期に投与された場合に、コルチコステロイドは薬物誘発AINを治療するのに有益である可能性がある。

 

f:id:aquariusmedgim:20170617110042p:plain

症状
・無症候性
・全身症状(発熱、悪寒、倦怠感、食欲不振など)
・関節痛、関節炎
・筋痛、筋炎
・側腹部痛

 

所見
・発熱
・皮疹(麻疹状、斑状、びらん性紅斑、毒性表皮壊死など)
・リンパ節腫脹
・触診可能な腫瘤(すなわち腫脹した腎臓)
・側腹部圧痛

採血
・BUN/Cr上昇
好酸球増多
電解質および酸塩基障害
・肝機能異常
・血沈、CRP上昇
・貧血
・血清IgE値の上昇

尿定性
・尿潜血陽性
・尿WBC陽性
・尿タンパク陽性(1+ 多くても2+まで)

尿沈渣
・白血球円柱
・顆粒球円柱
好酸球尿(特徴的)

*尿β2ミクログブリンや尿中NAGも高値になるが、急性尿細管壊死でも認められるとのこと。

 

尿中好酸球の診断特性

f:id:aquariusmedgim:20170617111314p:plain

AINでの赤血球円柱円柱

f:id:aquariusmedgim:20170617111404p:plain

 

 

 

原因薬剤

f:id:aquariusmedgim:20170617111228p:plain

 

なお、ステロイドに関しては比較的初期であれば効果がある可能性。

効果がないとしたstudyは既に腎機能が進行している傾向。

 

なお、非定型抗精神病薬はAKIのリスク

Atypical Antipsychotic Drugs and the Risk for Acute Kidney Injury | Annals of Internal Medicine | American College of Physicians

カナダのPopulation-based cohort study.

高齢者を対象として調査。

Atypical antipsychotic drug use versus nonuse was associated with a higher risk for hospitalization with AKI (relative risk [RR], 1.73 [95% CI, 1.55 to 1.92]).

と高齢者にとって非定型抗精神病薬はAKIのリスク

 

A Retrospective Cohort Study of Acute Kidney Injury Risk Associated with Antipsychotics | SpringerLink

もうひとつ、後ろ向きコホート研究。

◯非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬に比べてAKIのリスク

オランザピン(ハザード比(HR)1.344,95%信頼区間(CI)1.057-1.708)
、クエチアピン(HR 1.350、95%CI 1.082-1.685)、ジプラシドン(HR 1.338,95%CI 1.035-1.729を服用した患者では、AKIのリスクが有意に増加した。
アリピプラゾール(HR 1.152,95%CI 0.908-1.462)およびリスペリドン(HR 1.147,95%CI 0.923-1.426)は、ハロペリドールに比べてAKIのリスクが少し高い傾向 。
フルフェナジン(HR 0.729,95%CI 0.483-1.102)は、ハロペリドールと比較してAKIのリスクが少し低い傾向。
薬物クラス間で比較した場合、非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬よりもAKI(HR 1.313、95%CI 1.083-1.591)のリスクが有意に高かった。

 

 

なお、非定型抗精神病薬であるクロザピンはAINを誘発しうる

Hong Kong Med J. 2015 Aug;21(4):372-4. doi: 10.12809/hkmj144312.

Clozapine-induced acute interstitial nephritis.

Clozapine-induced acute interstitial nephritis. - PubMed - NCBI

リスペリドンによるAINの報告はない。。

とはいえ。。

今回は、AINとしてもNSAIDSが原因でしょう。。。